元サッカー選手 前田 義貴 Yoshiki MAEDA

情報過多の時代。
必要な情報を
取捨選択していくことも大切

前田 義貴前田 義貴

プロサッカー選手がネクストキャリアへの一歩を踏み出す上で、その決断や心構えについてはどのように考えていますか?

私がネクストキャリアに向かおうとしたのは、2002年から03年でした。当時はインターネットが本格的に普及し始めた時期で、今振り返ると、次なるキャリアを検討する上で思うように情報を得られるような時代ではありませんでした。当時は世の中の潮流、業種や職種の現状、求人の状況を把握することが難しく、ネクストキャリアに向けたビジョンのイメージすらできていませんでしたね。同時に、ビジョンや計画が立てられないため、学んでおくべき知識や身につけておくべきスキルを考えることも簡単ではありませんでした。

だからこそ、当時から情報の価値や重要性を強く感じましたし、今の時代を生きる皆さんのことをとてもうらやましく思っています。現在はさまざまなツールがありますから、ネクストキャリアやビジネスの最新情報に触れることも決して難しくはないのではないかと思います。このような社会においては、現役時代からどこにフラグを立てて、どのような情報を収集するかという点が大きなポイントになるような気がします。一方、今は情報過多の時代とも言われます。将来に向けて情報を集めるだけでなく、自分にとって必要な情報を取捨選択していくことも大切な取り組みとなるのではないでしょうか。

現役時代と会社員時代を比較して、仕事を進める上で共通する要素があれば教えてください。

どちらの場合も、一人でできることはとても少ないと思います。だからこそ、仲間にうまく役割を託し、適切に対応してもらうことが大切です。もっとも、それを実現させる上で大前提となるのは、チームの仲間や会社の同僚とどれだけ綿密なコミュニケーションが取れているかどうかという点。現役時代もネクストキャリアを歩む今も、コミュニケーションの上手な取り方は常に意識しています。

個人的には、仲間に気持ちよく役割や仕事をこなしてもらいたいというイメージを持っています。同様に、チームや組織の誰もが、仲間に対してそのような意識を持って接することができれば、最終的に「このメンバーと一緒に仕事ができてよかった」という思いをみんなが抱くことにつながります。そして、仲間の誰もが感謝の思いを共有できた瞬間、その仕事は成功として結実するのだと思うのです。そのためにも、メンバーの一人ひとりがどのようなスキルや武器を持っているのか、同時に仕事に対してどのような姿勢で臨むのかといった部分を事前に把握しておくことが大切。このような点は、ピッチの上でもオフィスの中でも、変わることのない部分なのではないかと思います。

ネクストキャリアにおいて、前田さんはサッカー雑誌の編集者として次なる一歩を踏み出しました。新たなステージで直面した難しさはありましたでしょうか?

新たな環境で働くにあたって、社会生活に慣れることや業務の進め方、出退勤といった会社員としての働き方や立ち居振る舞いなどについては、比較的スムーズに適応することができました。今振り返ると、周囲の方々の手厚いサポートがあったからこそだと実感しています。

ただ、会社員として仕事を続け、徐々に自分の視野が広がる中で、「雑誌作りを続けているだけでいいのだろうか?」という疑問を抱くようになったことをよく覚えています。新たな時代に向けて急速にコンテンツのデジタル化が進む中、紙媒体を作ることしかできない自分への葛藤を感じ、何がやりたいのか、何をすべきなのかが分からずにもがいたことがありました。

その後の私は、サポートしてくれる上司や同僚にチャンスを与えてもらい、営業担当、サッカー番組のレポーター、フットサル施設の支配人などを務め、とても充実した日々を過ごさせてもらいました。ただ当時を振り返ると、私には「これがやりたい!」「こうなりたい!」という明確な答えがなかったような気がします。将来的なビジョンの欠如が自分の葛藤につながったところは否めませんので、個人としての目標や展望の重要性を痛感しました。

ネクストキャリアを検討している現役選手たちに向けて、アドバイスやメッセージをお願いします。

「平日のプロサッカー選手は、午前中しか仕事をしていない」とよく言われます。決してそうではない部分もあれば、当てはまる部分もあるでしょう。ただ、時間があるとはいえ、自分の中で興味の沸くものがなければ、時間は有効に使えません。だからこそ、好きなことを見つける、気になることを発見する。将来に向けて、ぜひこの部分を意識して日常生活を送ってもらいたいと思います。好きなこと、気になることと出会い、心の中のスイッチが押された時、より知りたい、詳しくなりたい、上達したいといったモチベーションが高まります。そういった感情は将来のキャリアを考える上で大きなヒントにつながりますから、「自分が楽しいと感じることは何か?」というアンテナを常に立てることを意識してもらえたらと思います。