サービス残業やパワハラなど、様々なトラブルを抱えるブラック企業。
ブラック企業で働く宿命だとひたすら耐える人もいれば、トラブルを解決するために労働基準監督署などに相談する人もいます。
今回のテーマはブラック企業の相談窓口について。
ブラック企業の問題にもいろいろありますが、相談内容や求める対応ごとに相談すべき窓口は異なる場合があります。
今回の記事では、
- よせられる相談内容はどのようなものが多いのか
- 相談内容別の相談窓口
- 相談に行く前に準備すべきこと
について解説します。
今現在ブラック企業にお勤めで、毎日ストレスを溜め続け身動きが取れなくなっている方にこそ読んでいただきたい内容です!
ブラック企業に関する主な相談内容
ブラック企業に関する相談は、日々たくさん寄せられています。
ここで気になるのが、「一体どんな悩み相談が多いのだろう」という点。
以下は過去に厚生労働省が行なったブラック企業に関する無料電話相談において、相談内容ごとにまとめた集計結果です。
▼ブラック企業に関する相談内容
出典:日本経済新聞「ブラック企業相談、1日で1042件 サービス残業半数(厚労省)」
1日に寄せられた相談件数は1042件、その内訳は以上の通りです。
「賃金不払い残業」が全体の53.4%を占めて最も多く、「長時間労働・過重労働」(39.7%)、「パワーハラスメント」(15.6%)が続いていますね。
この章では上記データを参考にしつつ、ブラック企業の問題として寄せられる相談内容の代表的なものを5つ紹介します。
1.残業代未払い
残業が多いだけならまだしも、残業代が未払いとなれば、完全にタダ働きになってしまうため、何の得にもなりません。
ブラック企業は残業代を支払いたくないために、従業員に以下のような対応をすることが頻繁にあります。
- タイムカードを定時に打刻させる
- 仕事を家に持ち帰らせる
- 残業自体を認めない
中でも最もよく耳にするのが、タイムカードを定時に打刻させるというもの。
改めて考えれば正しくないことは明らかなのに関わらず、入社してからずっと「残業する際には先にタイムカードを打刻する」ことが当たり前になり、感覚が麻痺してしまう人も多いです。
2.月80時間以上の残業
残業時間があまりにも長いと、長時間労働や過重労働についての相談をする人も非常に多いです。
残業時間においては、「過労死」に至る可能性があると考えられているボーダーラインが設定されており、その具体的な記載は以下の通り。
- 発症前1か月間におおむね100時間
- 発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働
1ヶ月に100時間を超える残業、もしくは2〜6ヶ月の間80時間を超える残業が続いた場合には、体に負担がかかり最悪の場合過労死を引き起こすことがあるとされているのです。
そもそも、労働時間に関しては、法律で明確にルールが決まっているため、これを違反している場合には企業は改善する義務があります。
然るべき機関に相談することで企業に調査が入り、結果的に残業に関する問題が改善するケースもあります。
3.パワハラ
パワハラに関しては、実際に体を痛めつける「身体的な嫌がらせ」から、精神面を追い詰めるものまで様々です。
- 上司に顔を殴られた
- オフィスにいる全員の前で罵られた
- 上司に逆らったペナルティで草むしりを強要された
これらは全てパワハラに該当します。
パワハラが横行していることの多いブラック企業では、精神的に追い詰められた従業員がうつ病や適応障害などの精神疾患を発症するケースも少なくありません。
パワハラはブラック企業の問題として非常に大きな部分を占めているのです。
4.有給休暇や産休育休を取得できない
労働者が持つ権利を全く使わせてもらえないという内容の相談もあります。
広く言えばパワハラの延長で起こることですが、「有給を取らせてもらえない」、「産休を取るなら退職しろと迫られる」などの相談もあります。
会社規定には、有給休暇や産休・育休についてしっかり記載されていても、実際には取得できている人がほぼいないケースもブラック企業では珍しくありません。
5.不当な解雇・降格処分
会社員としての使命をまっとうし、会社のために一生懸命働いてきたのに関わらず、ある日突然解雇されたり降格処分を受けたりするケースもあります。
ブラック企業においては、
- 会社の方針に口出しする人
- 上司の命令に従わない人
- 残業やパワハラに関して法的手段に訴えようとする人
などの社員は一言で言えば「邪魔な存在」でしかありません。
そのため、何か口実を作り退職に追いこんだり、降格させたりすることがあるのです。
ブラック企業に関して寄せられる相談の中には、このような不当な解雇や降格処分についての訴えも少なくありません。
ブラック企業の相談窓口4つ
ブラック企業の問題について相談する際には、主な相談窓口について知っておく必要があります。
弁護士に相談するという選択肢もありますが、まずは費用を大きく投資することなく相談する場合を想定し、
- 労働基準監督署
- 労働局
- 労働組合
- 労働相談ホットライン
以上4つの相談窓口について紹介します。
それぞれ、対応できる問題の種類や、対応方法に違いがあるため、ここでしっかり理解を深めておきましょう。
労働基準監督署
労働基準監督署で相談可能な問題は、「労働基準法違反」の問題に限定されます。
つまり、労働基準法に違反しているケースが多い、
- 賃金未払い
- サービス残業
などについては労働基準監督署に相談するのが正解です。
労働基準監督署へ相談する際には費用は一切かかりません。
労働基準法に違反していると判断すれば、強制的に会社に立ち入り調査をすることが可能なので、問題解決につながるケースもあります。
しかし、労働基準監督署は多忙を極めており、相談内容に緊急性がないと判断されれば、対応は後回しにされることも多く、迅速に解決できるケースはごく稀です。
メリット◎
- 費用がかからない
- 企業に立ち入り調査を行うことができる
デメリット×
- 是正勧告はできても強制的に賃金を支払わせるなどは不可能
- 緊急性が高くなければすぐに対応してもらえない
労働局
労働局は労働基準監督署のさらに上位機関にあたります。
労働局相談できる内容は簡単に言えば「労働基準監督署で相談できない内容」です。
労働基準法に関わる相談であれば、労働基準監督署が対応するため、
- パワハラ・セクハラ
- 不当解雇・降格
- 賃金の引き下げ
など、直接的に法律に触れない問題がある場合には労働局に相談すると良いです。
労働局に問題を相談すると、まず「助言」をもらいますが、この時点で労働局が動いてくれるわけではありません。
実際に機関に動いてもらうためには、労働局の下部組織にあたる「紛争調整委員会」の「あっせん」を受ける必要があります。
実際、紛争調整委員会が動いたとしても、企業は委員会の提案した話し合いの機会を拒否することもできるため、結果的に問題解決に至らないケースも多いです。
メリット◎
- 費用が一切かからない
- 労働基準法に関わらない内容の相談を受けてもらえる
デメリット×
- 助言のみしかもらえずに解決に至らない場合が多い
- 企業に対して強制力を持つ施策がない
労働組合
ブラック企業の多くは社内に労働組合を持ちません。
もしもあなたの勤め先のブラック企業に労働組合がある場合は、まず労働組合に相談すると良いです。
労働組合で相談できる内容は、労働に関わる全ての問題です。
社内に労働組合がない場合には、「ユニオン」と呼ばれる合同労組に入ることで、問題について労働組合に相談することが可能になります。
企業別組合を組織しにくい中小企業労働者が、一定地域ごとに個人加盟原則によって加盟できる労働組合をいいます。ユニオンは合同労組の一種。
労働組合に相談すると、組合が企業に団体交渉を武器に圧力をかけることができます。
この交渉権の他に団体行動権があり、企業に要求を飲ませるために行動することが可能です。
会社側は「企業の評判を落とされるわけにはいかない」と考えるため、労働組合に行動を起こされないよう、組合の求める要求を飲むことになるケースが多いのです。
しかし、労働組合は組合によってサポートのレベルにばらつきがあったり、問題解決後に解決金がかかるケースがあったりと、デメリットもあります。
メリット◎
- 団体交渉権・団体行動権を持って企業に圧力をかけることができる
- 社内に労働組合がある場合、手軽に利用できる
デメリット×
- 労働組合ごとにサポートレベルが異なる
- 企業を守るための労働組合も存在する
- 費用がかかるケースがある
労働条件相談ホットライン
労働条件相談ホットラインは厚生労働省の委託事業です。
利用料金は完全無料。
フリーダイヤルで電話代もかかりません。
年末年始以外は年中休みなく電話相談を受け付けています。
労働条件相談ホットラインでは、労働条件に関わる全ての悩み相談に対応してもらえます。
しかし、労働条件相談ホットラインは「専門知識を持つ相談員が法律にもとづきアドバイスをしてくれる」ものであり、特に企業に対して是正勧告などを行なってくれるわけではありません。
この点が大きなデメリットと言えますが、利用のしやすさや手軽さの面では一度利用してみる価値は大いにあると言えます。
メリット◎
- 完全無料で毎日相談受付中!ツラい時にすぐ話を聞いてもらえる
- プロのアドバイスがもらえる
デメリット×
- 企業に直接的に是正勧告を行うことはできない
- アドバイスをもらい自力で問題解決に向けて取り組む必要がある
ブラック企業のトラブル相談3つのポイント
ブラック企業の問題について相談する際には、以下の3つのポイントを意識すると良いです。
- 証拠をできるだけ多く集める
- 問題がある場合にはなるべく早く相談する
- 匿名よりも名前を伝えて相談する
せっかく思い切って相談しにいったのに、結局ろくに取り合ってもらえなかったなどとなると、時間と労力の無駄です。
というわけで、この章ではブラック企業のトラブル相談の3つのコツについて解説します。
1.証拠を可能な限り集めておく
労働基準監督署も労働局も労働組合も、何か実際に行動を起こしてもらうとすれば、「問題となる行為が確実に起こったと認められた場合」に限ります。
つまり、
- 残業時間を証明する証拠がない
- パワハラの事実を裏付ける証拠がない
などの場合、極端な話「単なるでっち上げ」である可能性もあるため、企業に対して調査や是正勧告などを実施することはできないのです。
というわけで、必ず「証拠」を準備しましょう。
残業を証明するものとしては、
- 社内メールのやりとり
- オフィスが入るビルの出退館履歴
- 公共機関のICカード履歴
などでも良いです。
多くの場合「タイムカードは定時で切らされている」ため、それ以外のもので本当の労働時間を示す証拠となるものを用意しましょう。
パワハラに関しても証拠がなければ国の機関や労働組合が動くことはありません。
パワハラの証拠として有力なのは、
- メール履歴
- 会話の録音データ
などが代表的です。
特に会話の録音データは意識的に前もって準備しない限り入手できないものです。
パワハラの問題を放置せず相談に行くと決めた日以降、日々チャンスを伺ってスマホやボイスレコーダーを持ち歩き、隙を見て録音するようにしましょう。
2.悩まず早めに相談する
ブラック企業のトラブルに関する相談は、なるべく早い段階でしておくに限ります。
なぜなら、長時間労働やパワハラなどの問題は放置しても改善される見込みがかなり薄く、
逆に悪化してしまう可能性の方が高いからです。
長時間労働もパワハラも、放っておくことで心と体への負担が蓄積され、最悪の場合健康状態を著しく損ねてしまうケースも珍しくありません。
早めに相談することで、問題が早めに改善されればそれに越したことはありません。
一人で悩まず、早めに相談しましょう。
3.自分の名前と連絡先を伝える
労働基準監督署や労働局には、匿名で相談することができます。
会社にバレたくない、もしバレたらさらにひどいパワハラに遭いそうで怖い、などの思いから匿名で相談したいと考える人もいるでしょう。
しかし、相談する際にはなるべく自分の名前や連絡先を開示する方が良いです。
なぜなら、匿名相談の場合アドバイスはもらえても労働基準監督署などが調査を実施したり是正勧告を行う可能性は極めて低いからです。
また労働基準法では、労働基準監督署へ相談した労働者を会社が処分することは禁止されています。
労働基準法第百四条
事業場に、この法律又はこの法律に基いて発する命令に違反する事実がある場合においては、労働者は、その事実を行政官庁又は労働基準監督官に申告することができる。使用者は、前項の申告をしたことを理由として、労働者に対して解雇その他不利益な取扱をしてはならない。引用:労働基準法
匿名で相談することで監督機関が何も動いてくれないのだとしたら、やはり名前などの個人情報を開示して相談する方が断然良いです。
抵抗を感じる人も多いかとは思いますが、ここは勇気を出して名前を出して相談しましょう!
まとめ
ブラック企業の問題については、日々の忙しさに追われてなかなか相談にも行けず、時間だけが経過してしまうことも多いでしょう。
しかし、放置することでさらに状況は悪化し、気づいた時にはすでに自分自身が疲弊してしまい行動を起こすことさえできなくなってしまうケースは少なくありません。
「これはおかしい」と思った時には、迷わず相談窓口を頼りましょう。
ブラック企業は簡単になくなるものではありません。
しかし、あなたが相談すること、同じように悩む人たちが一人でも多く相談することで、世の中が少しずつ変わる可能性もあります。
あなた自身のため、そしてあなた以外に他に同様の悩みを抱える人たちのため、勇気を出して立ち上がりましょう!